Runner in the High

技術のことをかくこころみ

続・最近読んだ太平洋戦争に関する本4選

この記事の続編(?)

izumisy-tech.hatenablog.com

深海の使者

ノンフィクション・ドキュメンタリーの大御所、吉村昭によって描かれる遣独潜水艦作戦のドキュメンタリー。

映画「ダンケルク」を見てから、船乗りから見る潜水艦というのはめちゃくちゃ怖いものなんだというイメージを持っていたが、一方で潜水艦に乗る人間もまた異常な緊張感に晒されながら生きていたということがよく分かる。

読んでいて自分も思わず息を止めてしまうような描写が多い。特に敵の多い海域で数時間も酸素交換せずに連続潜行をしたり、海上駆逐艦をやり過ごすために海底で息を潜めながらもジワジワと艦内の酸素が失われていく描写には、逃げ場のない空間特有の恐ろしさがある。

日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実

太平洋戦争の日本兵がいかに劣悪な環境および装備で戦っていたかをひたすら紹介する本。

意外な事実だが、当時の日本兵は実際に敵兵に銃で撃たれたりする「戦死」よりも、環境からくる病死のほうが多かった。もちろん、兵士が病気になるということは、太平洋戦線の極限的な環境からは容易に想像できるものだが、ほとんどの場合、兵士に対する処置は場当たり的なものに終止するだけで、何かしらの恒久的対策は取られることがなかった。

戦場での病死意外にも、戦場におけるいじめ、自殺、上層部の混乱、覚せい剤の乱用、などなど様々なテーマで戦争という状況が生み出す地獄が、当時を生き延びた人の証言とともに描かれている。中でも個人的に恐ろしかったのは、海没死の章で紹介されていた水中爆傷。軍医の証言を読むだけでも恐ろしい。

ドキュメント戦艦大和

戦艦大和が撃沈される菊水作戦を描いた、生存者による証言ベースのノンフィクション・ドキュメンタリー。

筆者による描写は連合軍と日本海軍それぞれの記録に基づくものに限られ、それ以外の大半は実際の乗艦者及びパイロットによる記録、証言になっている。この本を読むと、日本海軍のトレードマーク的存在であったはずの戦艦大和が、取り回しのしづらいお荷物的兵器になっていた事実が分かる。まさか大和の最期が片道燃料のみの玉砕戦闘になるとは、作った当時は誰もが想像していなかっただろう。

また、なにより連合軍による爆雷撃が始まったあたりからの描写の激しさがハンパではない。恐ろしいほど細かい戦闘の描写が描かれていて、ただ読んでいるだけでも実際に自分が大和の乗組員にでもなったかのような気持ちになる。しかし、海の上で四方八方から攻撃を受けるというのは、その場にいれば本当に気が気ではなくなるだろう。

ミッドウェー戦記

元海軍軍人の作家、豊田穣によるミッドウェー海戦の戦史物語。ここまでの本の殆どがノンフィクション・ドキュメンタリーであったが、コチラの本はもう少し登場人物のフィクショナリ―感がある。

ミッドウェー海戦といえば前回の記事で紹介した失敗の本質でも触れられる旧日本軍の失敗作戦のひとつとして有名だが、この本ではそのミッドウェー海戦の前後含めてどのように実際の戦いが行われたかが描かれている。日本海軍が空母の艦載機を爆装に切り替えている最中に連合軍機動部隊から急襲を受けるあの混乱具合は、こちらでもしっかり描かれており、読んでいてこの部分に差し掛かるだけでも肝が冷える感覚を味わえる。

しかしながら、若干気になるのはこの本で描かれているもののどこまでが事実で、どこまでがフィクションなのかがいまいちぼんやりしていること。本の中で出てくる登場人物はどれもめちゃくちゃ饒舌だが、よくもまあここまで当時のことを覚えていられるなと。しかし戦争ほど強烈な経験をしたら、そうそう記憶が薄れるということもないのかもしれないが...